手術・麻酔関連情報

手術・麻酔のリスク
動物病院では全身麻酔での手術が毎日のように行われています。その子の年齢や体調、性格、基礎疾患の有無によって、また手術の内容や想定される手術時間によって使用する鎮静薬、鎮痛薬、麻酔薬の種類を決定することになります。後述しますがこれら麻酔関連薬には必ず有益な作用と副作用があり、我々獣医師は各々のケースについて、より適切と考えられる麻酔プロトコール(手順と組み合わせ)を決定します。
実際のところ、このプロトコールは獣医師の経験と知識に委ねられており、ゴールデンスタンダード的な麻酔法は存在しません。それゆえ獣医師は常に動物に対する麻酔知識の向上に取り組み、麻酔リスクを極力少なくする努力を続ける必要があると考えます。
実際に動物に全身麻酔を施すことで最も起こり得る副作用は、心肺機能が侵されることによる呼吸の抑制や血圧の低下です。程度に違いはあるものの必ず呼吸や血圧に負担はかかります。それがその動物の許容量を超えてしまった時に麻酔リスクが発生することになります。
具体的には循環障害、呼吸器障害、肝機能障害、腎機能障害、ショック、精神症状、心停止などです。麻酔リスクが起こる可能性はその許容量が少ないほど大きくなると言えます。許容量が少なくなる例として高齢、肥満、内臓疾患、担癌の状態やもともと呼吸器や循環器にハンデのある動物種などです。
それでは、いろいろな麻酔や手術においてどれくらいの確率で麻酔リスクが発生するのでしょうか?実際のところ動物の麻酔リスク関連のデータは人間のものほど多くありません。その原因の1つは、我々獣医師が麻酔管理に関わる情報を記録、分析し共有するシステムを構築できていないところにあります。
近年、大学レベルでは情報開示が進んできており断片的ではありますが、麻酔リスク関連のデータが蓄積されつつあります。それらによると若くて健康な動物での一般的な手術での関連死の頻度は0.1~0.3%とされており、300~1000に1の割合で尊い命が消えてしまう現状にあります。これはおそらく人間での割合に比べかなり高いと考えられます。
人と違い動物はこれから行われる手術に対して覚悟するという認識はありませんし、痛みを繊細に表現するすべもありません。麻酔リスク以外にも手術の前後で想像以上の恐怖を体感することでパニックやショックといった神経系のストレスが負荷されて心肺や脳機能が侵されることがあったり、動物種によっても痛みに弱かったり、体温や呼吸調節能が低かったりとさまざまなケースがあることがリスクを高める要因になっていると考えられます。
我々獣医師に求められているのはその手術のリスクが最小限になるように綿密に計画をたてて無事に終わるためのすべての努力を惜しまないことにあります。また、なぜその手術が必要なのかの認識説明が重要でありそれに伴うリスクを含めた情報開示を行うことでご家族と手術にかける思いを1つにすることが手術成功への目に見えない大きな力となると考えます。
1000に1でもご家族にとってはかけがえのない1であることを肝に銘じて小さな命をお預かりしたいと思います。